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エマニュエル・トッド「家族人類学と人口動態学から未来を予測」

エマニュエル・トッド / Emmanuel Todd

家族人類学と人口動態学から未来を予測


概要


生年月日 1951年5月16日
国籍 フランス
学歴

・パンテオン・ソルボンヌ大学

・パリ政治学院

・ケンブリッジ大学

代表的著作

・『最後の転落』(1976年)

・『第三惑星』(1983年)

・『世界の幼少期』(1984年)

・『帝国以後』(2002年)

・『家族システムの起源』(2011年)

分野

歴史、人類学、人口統計学、社会学、政治科学

エマニュエル・トッド(1951年5月16日)はフランスの歴史学者、人類学者、人口統計学者、社会学者、政治科学者。

 

トッドは世界のさまざまなタイプの家族形態が信念・イデオロギー・政治システムと結びついてるかを解き明かし、また、家族人類学と人口動態学から割り出した数値に基づいて、蓋然的な未来社会を予測している。

 

人口動態学を基盤にしてさまざまな数字の分析を行い、ソ連で乳児死亡率が上昇している事実から、ソ連の崩壊を予言した。最近はイギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ政権誕生を予言した。

略歴


エマニュエル・トッドは1951年にフランスのサンジェルマン・アン・レーに生まれた。父親のオリヴィエ・トッドはイギリス出身のジャーナリスト、母親は作家のポール・ニザンとアンリエットの娘というフランス・インテリ階級の出身。

 

トッドにとって、英仏双方の血を引き、2つの文化的背景を持つことは他のフランス人学者にはない強みになっている。

 

ミクロストリアの開拓者のフランスの歴史家エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリは、家族の友人でトッドに初めて歴史の本を与えたという。

 

10歳のとき、トッドは考古学者になろうと考えていたという。サンジェルマン・アン・レー国際高等学校に進学し、そこで共産主義青年団に所属する。

 

パリ政治学院で政治科学を学んだあと、父親の友人だったアナール学派の大立者ル・ロワ=ラデュリの勧めで、イギリスのケンブリッジ大学へ留学する。ケンブリッジ大学では、家族人類学研究の集団「ケンブリッジ・グループ」が画期的な成果をあげていた。このグループが、トッドの学問形成に大きな影響を与えている。

 

人類は大家族を起源として、文明が発達にするにつれて核家族になったという定説に疑問を抱いたケンブリッジ・グループがジョン・ロックの時代の家族類型を調べてみると、大家族はほとんどなく、核家族が大部分だったということがわかった。

 

大家族は存在せず、核家族が最初の形態であり、それが現代まで変わっていないのだと結論づけた。

 

しかし、トッドはヨーロッパには、ドイツやロシアなどに、家族が複数結合した「複合家族」ないしは「拡大家族」が過去において存在していたという論文を書き上げた。

 

その後、人口動態学を基盤にしてさまざまな数字の分析を行い、ソ連で乳児死亡率が上昇している事実から、ソ連の崩壊を予言した。これが25歳のときに書いた『最後の転落』(1976年)である。

 

80年代に入ると、トッドは『第三惑星』(1983年)と『世界の幼少期』(1984年)という重要な著作を発表。この二作は現在に至るまでのトッドの理論の骨格となった。

 

その後、アメリカを論じた『帝国以後』(2002年)は各国でベストセラーになった。最新作『家族システムの起源』(2011年)は、トッド理論の集大成となった。

死亡力転換と出生力転換


ワクチンの開発と栄養状態の向上


人類は18世紀のある時期、少産少死型社会へ移行をはじめた。まず少子化が始まった。種痘などのワクチンの発明と栄養状態の向上で乳児死亡率が下がった。人口動態学では、この少子化の始まりを「死亡力転換」と呼ぶ。

 

反対に出生率が低下することを「出生力転換」という。死亡力転換が起こりかなりの時期をおいた時期に出生力転換が起きると、出生率はそのまま下がり続け、人為的な政策をとらない限り、再び上向くことはほとんどない。

 

出生力転換が起きるのは、個人個人の意識の結果の総和としてではなく、あくまで集団的な無意識の結果である。

女性の識字率の向上


トッドによれば、出生の低下をもたらす最大の要因は経済ではなく、識字率、とりわけ女性の識字率にあるという。トッドは、男性の識字率が50%を超えると社会変革の気運が生まれ、続いて女性の識字率が50%を超えると出生率が下がり、社会が安定する

女性の識字率が50%を超えた時点を、トッドは「テイク・オフ」と呼び、その地域・社会は近代化の段階に入る。

 

女性の識字率が一定の水準を超えるとその共同体は出産調整を開始し、必然的に出生力転換が起こる。

 

出生力転換の時期にずれが生じるのは、家族システムが単一ではなく、さまざまなヴァリエーションがあり、そのヴァリエーションによって女性識字率が異なるからだという。

家族システム


●絶対核家族

アメリカ、イギリス

自由主義、資本主義

絶対核家族の家庭の単位は、父、母、子の「核」からなり、親は子に、早い時期から独立を促す。親子の絆は強くなく、その分子も親も「自由」を保証される。世代が断絶しやすいため、知恵や経験が継承されず、そのため教育不熱心になる。兄弟同士で平等に遺産を分割する観念がないため、兄弟同士が独り占めを狙って争いあう。「自由」「競争」「差異主義」という原理で、あくまで個人が優先される。

 

●平等主義核家族

フランス、スペイン

共和主義、無政府主義

核家族という点ではイギリスと同じだが、兄弟同士が「平等」の扱いになる。財産は兄弟で平等分割される。農具、工具、家畜、食器、家具、衣服などの「動産」を兄弟は遺産として平等に分割される。「自由」はイギリスの核家族と同様に教育には不向きだが、遺産相続において平等主義原理が生まれた。「自由」と「平等」という精神が生まれた。

 

●直系家族

ドイツ、日本

一子相続。一人だけの跡取りは丁寧に教育され、結婚後も親と同居する。直系家族は農地、家という不動産と結びつく。次男、三男は平等に扱われない。直系家族社会では、次男と三男が革命や反乱の分子となった。

 

●外婚制共同体家族

ロシア、中国

共産主義

子である兄弟たちはその父親のもとに全員同居し、服従する。兄弟が何人いても、結婚後もすべて親と同居して大集団になる。しかし、兄弟は平等である。この形態は戦争において有利である。しかし、強靭な権力を持っていた父親が亡くなると、またたく間に瓦解する。