本書は「Eric Hoffer,The True Believer-Thoughts on the Nature of Mass Movements,(New York:1951, Harper & Brothers)の全訳である。「大衆運動の本質に関する考察」という原書の副題がしめすとおり、ファシズムや共産主義の発展時に起こりがちな「大衆運動」の本質を明らかにするものである。この本でホッファーは、人間の心の中に潜む“madhousese(狂信行動)"へと向かう原因を突き止めようとした。
ホッファーの基本的な考え方は、宗教や政治における狂信行動や極端な文化運動は、突発的な出来事ではなく、きちんと予測可能な状況で発生するということである。ホッファーによれば、近代社会は、大衆が欲求不満にさいなまれ、自己の存在の意味に対して自身を喪失し、自分が役に立たないと感じ始めたときに取り返しのつかない崩壊を起こすという。
このような欲求に苛まれた大衆は、ほぼ「共同行動」と「自己犠牲」の傾向が生じるという。大衆の主要な要求は、「無力な自己から逃避」と「急進的な改善」である。大衆の唯一の希望とな